男性不妊症に対する漢方薬治療の効果

English Abstract

第39回 日本不妊学会 1994.10.26

  小山竜一、森本義晴、河田 淳、長尾幸一、井上 剛、藤原保晋、宮田広敏、山崎雅友、當仲正丈、川岸典子、森本武晴、堀越順彦*、神崎秀陽*

河内総合病院 不妊センター (〒578 大阪府東大阪市横枕東28) The Centre for Reproductive Medicine and Infertility, Kawachi General Hospital, Osaka, Japan *関西医科大学産科学婦人科学教室

  概  要
男性不妊症に対する漢方治療薬としては、補中益気湯・八味地黄丸・猪苓湯などが広く用いられている。今回我々は、膿精液症 (Pyospermia )の患者に対して猪苓湯とニューキノロン系抗菌剤の併用療法を行い、次の結果を得た。
(1)精液中の白血球数が有意に減少した。
(2)精子運動率については、上昇傾向がみられた。
(3)精子精密検査では t-HOST, VHOS-cにおいて増加傾向がみられ精子膜機能の改善が示唆された。
以上の結果から本併用療法が男性不妊とくに膿精液症の治療に有用であると考えられた。
緒  言
 近年、体外受精を初めとするAssisted reproductive technology の導入によって不妊治療が飛躍的に進歩した。さらに、男性因子を帰因する不妊患者において顕微授精の利用により、かなりの患者が妊娠に成功するようになっているが、いまだに根本的な問題があり成功率をより高めるためには、適当な治療法を用いて精子の質を向上させることが望まれる。
 当不妊センターでは、精子の質向上の目的で漢方治療薬として補中益気湯・八味地黄丸・猪苓湯などを使用し、かなりの成果を挙げているが、今回我々はとくに精子機能を著しく低下させると考えられる膿精液症の患者に対して漢方薬治療を試みたのでその結果を報告する。

対  象
 1994年 1月〜8月までの当不妊外来を受診した男性不妊患者のうち精液検査で膿精液症と診断された21例を対象とした。

方  法
^ 薬剤の投与
猪苓湯 6 g / day およびニューキノロン系抗菌剤ロメフロキサシン 300 mg / day を6〜28 週(平均 13.1 週)間投与した。
(2)治療効果の判定
 治療効果は、薬剤投与前と投与後の精液一般検査〔白血球数・精液量・総精子濃度・運動精子濃度・運動率〕の結果並びに精子精密検査結果の比較により判定した。なお精子精密検査として精子尾部膨化試験(Hypoosmotic swelling test;以下HOST),超生体染色を応用した精子尾部膨化試験(Combined supravital staining and hypoosmotic swelling test 又はViability in hypoosmotic solution; 以下VHOS)および精子遊走試験(Sperm wandering test;以下SWAT)を用いた。

結  果
  精液一般検査結果は表1に示す通りで精液量・総精子濃度・運動精子濃度および運動率については有意差は認められなかったが、白血球数では有意な減少が認められた(t-検定;p<0.005)。
精子精密検査の一つであるHOSTは、低浸透圧負荷により精子の尾部細胞膜の形態学的変化を観察し間接的に精子の受精能を知る方法で尾部が膨化している Type b〜g の totalを t-HOST として比較を行ったが有意差は認められなかった(表2;図1)。VHOSは低浸透圧液にエオジンYを加え、その染色性により精子の生死を判定する方法であって染色される精子(Type a,b)は“死”と判定され、染色されない精(Type c,d)は“生”と判定される。本検査において重要な意味をもつ生きていてなおかつ膜機能が正常な精子、すなわち非染色膨化精子(Type c)の数を示すVHOS-c について比較したが有意差は認められなかった(図2)。SWATは精子が妻の血清中で一定時間に泳ぎ上がる距離を測定し精子の運動性を評価する方法である(図3)。15分値と120分値につき比較したがいずれの値にも有意差は認められなかった。

考  察
 当不妊センターでは、ギムザ染色により染色された白血球数が10×105/ml 以上精液中に認められる場合を膿精液症と定義している。
 精液中には多数の球形細胞(round cell)が存在しており、これが未熟生殖細胞であるか、白血球であるか、正確に判別することは困難であるが、当不妊センターでは染色された細胞を白血球として“カウント”している。
 膿精液症の原疾患としては、前立腺炎;精嚢炎などの副性器の感染症が推測されるため薬剤投与前に精液培養したところ、エンテロコッカス属;コリネバクテリウム属;ストレプトコッカス属が検出された症例がみられた。
 猪苓湯は、沢瀉;猪苓;茯苓などの利水性の生薬を含む漢方薬である。頻尿・残尿感などの排尿障害があり、しかも痛みや血尿などの炎症症状を伴う尿路感染症に頻用される薬剤であり、精路などの炎症性の疾患に有効と考えられる。
 治療困難な膿精液症に対し猪苓湯とニューキノロン系抗菌剤であるロメフロキサシンとの併用療法により、精液中の白血球数を有意に減少させることが確認された(p<0.005)。また精子運動率については、改善傾向がみられた。さらに精子精密検査でも、t-HOST;VHOS-c において上昇傾向がみられ精子膜機能の改善が示唆された。

参考文献
1)Drevius LO, & Eriksson H, Osmotic swelling of mammalian spermatozoa.Experimental Cell Reserch 42:136, 1966.
2)Drevius LO, The permability of bull spermatozoa to water, Polyhydric alchols and univalent anions and the effects of the anions upon the keinetic activity of spermatozoa and sperm models. J. Reprod. Fert. 28:41, 1972.
3)Jeyendran RS, Van der Ven HH, PerezPelaez M, et al., Development of an assay to assess the functional integrity of the human sperm membrane and its relationship to other semen characteristics. J. Reprod. Fert. 70:219−228,1984.
4) Chan SYW, Wang C, Fox EJ, et al., The relationship between the human sperm hypoosmotic swelling test, routine semen analysis, and the human sperm zona-free hamster ovum penetration assay, Fertil. Steril. 44:668, 1985
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9) 田代眞一男性不妊と漢方, 産婦人科治療, 67, 424−431, 1993.

Clinical effects of traditional Chinese medicine on male infertility

Ryuichi Koyama, Yoshiharu Morimoto、Kouichi Nagao, Hirotoshi Miyata Masatomo Yamasaki, Masatake Tounaka、Tsuyoshi Inoue, Atsushi Kawata and Takeharu Morimoto The Centre for Reproductive Medicineand Infertility Kawachi General Hospital、Higashi-Osaka 578, Japan

Susumu Sawaragi, Yorihiko Horikoshi and Isamu Sawaragi Department of Obstetrics and Gynecolgy Kansai Medical University、 Moriguchi 570, Japan

  We investigated the usefulness of the combined treatment with Chorei-to and an Oral New quinolone against pyospermia.
1)The treatment significantly reduced thenumber of leukocytes in semen.
2) The treatment showed a tendency to improve sperm motility.
3) We concluded that this therapy is effectivefor the treatment of patients with male factorinfertility,especially with pyospermia.
Key words: Male infertility・Pyospermia・Chorei-to