昔は自然排卵の単一卵胞を用いていた

 女性の体内では、ふつう複数の卵が成熟していき、その中のひとつが主席卵胞として 成熟・排卵されます。十五年前に、英国のステプトー博士らによって体外受精がはじめ られた頃は、この自然排卵の卵を使用していました。
 ところが、現代の体外受精においては複数個の卵子を成熟させ、採卵することができる ようになりました。そのおかげで妊娠確率も、十パーセントから三十パーセントへと脅威 的な伸びを見せています。
一個の卵ではそれが受精に失敗するとこれで終わってしまいま すが、複数あれば「それがダメなら、次の卵」というように可能性を広げることができる からです。

全て凍結する時代が来る

現在では、胚の凍結技術も進歩してきています。ですから、体外受精でできた胚を凍結 しておいて、次の自然なホルモン周期のときに内膜へ移植することもできます。将来的には、多くの卵子を取って受精させ、その全てを凍結させて別の周期で胚移植するという方法がとられるようになるでしょう。

昔は採卵キャンセルが多かった

さて、卵子を入れる袋である卵胞が十分な大きさになり、中身の緊張度が高まると、卵 子は勢いよく外に放り出されます。数年前までは、この排卵の時期を見極めるのが難しく、いざ採卵しようと思ったらすでに排卵が終わってしまっていたというケースも しばしばありました。せっかく様々な準備を重ねてきて期待にふくらむ患者さ の夢が、こうして壊れてしまうこともあったのです。

排卵を制御する新薬が登場

しかし今では、新しい薬が登場したおかげで、排卵が終わらないように制御するこ とが可能になったのです。この薬は鼻に入れるスプレーとして使われることが多いので「鼻に入れる薬を使いますよ」というと怪訝な顔をされることがよくあります。この薬は誰にでも簡単に服 用できるうえに副作用も殆どない、というまさに夢のような薬なのです。この薬の開発によっ て、採卵を中止しなければならないと悲しみにくれる女性の数は激減しました。これも最近の科学のもたらした進歩なのです。

卵子の成長はばらばら

hyperst.gif ところで、卵子の成長は非常に微妙なものです。複数の卵子が成長するといっても その成長の度合いはばらばらなのです。例えば、七つの卵子ができる時、 先に二つが成熟したとき、ほかの三つはやや未熟で、残りの二つはまだ未熟 なままという具合なのです。そして、この未熟な卵子が成長するのを待っていると、先 のふたつは熟しすぎてしまうことになります。

採卵に適した時間帯はほんの12時間

採卵を成功させるポイントは、よい成熟度の卵をできるだけ多く取ることにあります。 しかし、卵子の状態が最も良い期間はごく狭い幅に限られているのです。そして、それを正しく見極めて採卵時間を設定するということが、不妊治療医の腕の見せ所といえるのです。
「排卵日が休日になるんですけれど」とか、「排卵の日に大事な会議が入っていて 都合が悪いのですが」という患者さんの言葉は、私たちがよく出くわすものです。しかし これに対する返事はいつも決まっています。「体外受精では卵が主役です。医師も患者 さんも卵のスケジュールに合わせましょう」と。
私は、一日採卵を遅らせただけで妊娠の成功率は三分の一に下がると考えています。採 卵に最適の時間はわずか十二時間しかないのです。私たちがご主人に無理をいうのもこの ような理由あってのことなのです。
このようなわけで「卵のわがままを聞いてやる」ということが成功の秘訣といえます。

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