この方法は日本製

新しい胚移植法は“TMET法(経筋層胚移植法)”といいます。そもそも体外受精は英国で始まった治療です。 私の体外受精プログラムも、オーストラリアのものにアメリカと英国の技術を加えた多国籍技術です。この外国オリジナルのなかにあって、TMET法だけは、世界に誇れるメード ・イン・ジャパンなのです。現在この方法は、日本の数施設と台湾の一カ所で行なわれて いるのみですが、台湾の郭宗正教授は、私たちの施設でこの方法を熱心に学ばれ、帰国後 応用を重ねて台湾一の成功率を上げて多くの新聞で有名になりました。

ルートが違う

それでは、具体的にTMET法を見てみましょう。この方法では、先のTCET法とはチ ューブを入れるルートがちがいます。TCET法では子宮の入り口から入れるのに対し 、この方法では子宮の筋肉を通して入れます。このように聞くと、痛みがあるのではな いかと心配なさる方もいらっしゃいますが、子宮自体は痛みを感じることはありません。

子宮内膜はダイナミックに運動している

この方法を使うまでは、私自身も子宮を長時間しみじみと眺めるということはほとんど ありませんでした。しかし、よく見てみると子宮、とくに内膜は、かなりダイナミックな 動きをしていることに気づきました。 子宮内膜は卵巣が分泌する黄体ホルモンのおかげで、日に日に分厚くなっていきます。 そして、胚移植の日には超音波で見ると、木の葉形になっています。木の葉には上下垂直 に葉脈が通っていますが、子宮でいえばこれは子宮腔にあたります。 私たちは、TMET法で子宮内膜の中央に埋め込むのと、子宮腔内へ入れるの とどちらが着床しやすいかの研究を行ないましたが、後者に軍配があがりました。この 理由としては、子宮内膜の一番表面にある上皮と呼ばれる重要な細胞が、胚に接触するこ によって好影響を与えるのではないか、と考えることができます。

案外簡単に終わる

TMET法でも、TCET法と同様に、熟練した技師が胚をチューブに装填します。入 る胚の数は場合によって違いますが、複数でも一度に入れてしまいます。この方法があ まりに短時間にあっけなく終わってしまうので、拍子抜けしてしまう患者さんすらいらっ ゃるようです。

一瞬のチャンスをねらう

ここで、子宮内膜をじっと見つめてみましょう。子宮内膜は、一分から三分の周期でうね うねと動いています。ほんの数秒だけ、針を進めるチャンスがあります。獲物を待つハンターのような心境です。もし、タイミングがずれた ら次のチャンスがめぐってくるのを待ちます。ひとつの生命の誕生を手伝うのですから 中途半端なことではうまくいきません。成功のためには、わずかのすきまに針を置くと いう技術が必要なのです。私はこの職人芸的なところが気に入っています。それにしても、患者さんの十年越しの苦労と家族の期待がこの一瞬にかかっていると思うと、その緊張感は並大抵のものではありません。

息を凝らして入れる

針がめでたく目的のところに収まったら、胚の入ったチューブを静かに注入します。 医師、薬剤師、技師の三人のスタッフは、息をこらして超音波の画面を見つめます。胚が いった瞬間に子宮内膜を白い影が流れます。これで成功です。張り詰めていた空気がなご み、安堵のため息が聞こえます。 このとき、私はいつも思うのです。全医療スタッッフの、人を幸せにしようという気の ネルギーが結集して、赤ちゃんの魂を呼び寄せるのではないか、と。

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